ネットで目の法楽──Webでお宝さがし

初稿は2001年12月。それからページがなくなったりサイトがなくなったり、変わった点は多い。しかし当時の状況を振り返るのも感慨深いと考え、なるべく原型のままとし、切れたリンクだけ整備して【】で注をつけた。

 ネット上でお宝を目指して泳いで行くと、思いがけないものに行き当たるかも──。お宝探しというとまず思いつくのは「Yahoo!オークション」だが、たとえば美術品では根付や刀のつばなど時々出てきているもののそれほどのレベルではない。英語の「Yahoo! Auctions」のサイトを開いてみよう。たいしたこともないタブローが30ドルくらいで売りに出されている。低調だ。
 しかし、「ヤフオク」はネット・オークションの基本だから、一度は経験してみなくては。登録制で(これがクレジットカード番号を入力したりでじつに面倒くさい)、身元をしっかりチェックする方向になって、いい加減なことは少なくなったし、ビッドの方式やメールでのもろもろのフォローもしっかりしている。ビッドに参加する場合、日本と米国のサイトでは別のID登録を要求される。
 さらにアメリカのオークション・サイトでナンバー・ワンとされている「イーベイ」は、どうだろう。ここでも平均は40ドル程度。だいたいはB級ものだが、ハリウッド関係のコレクションにときどきいいものが出るという。イーベイでぜひともチェックしてみたいのは「eBay Premier」【時代の変化は速い。このサイトはもう存在しない】のセクション。品物が描写と違っていたらサイトとして返品などの保証をするという、高級品のコーナーだ。「Memorabilia」のコーナーに行ったら、米国初代大統領ワシントンのサイン、ジュディ・ガーランドの楽譜などがで出まわっていた。いずれも数千ドルの価格でのビッドだ。やはり強いのはアメリカものだけれど、ピカソのデッサンや15世紀の時祷書なんかもあった。ちなみに系列の日本版サイト「イーベイジャパン」【ここも営業を停止】には高級品セクションは、ない。
 この手のサイトでいいものにたどりつきたいなら、やはりオークション会社の老舗、英国の「サザビーズ」だ。1744年に創立。美術品、アンティーク、宝石、蒐集品などを扱い、ベートーベンの未発表自筆楽譜やゴッホの『向日葵』もここでオークションにかけられた。「サザビーズ」はライバルの「クリスティーズ」に先駆けて2000年、ウェブ上にネット・オークションのサイト「サザビーズ・コム」を立ち上げた。世界でもっとも重要な印刷物のひとつとされる1776年の「アメリカ独立宣言」もネット・オークションにかけられ、800万ドル余で落札。最近はマドンナのブラジャーが約300万円でネットで競り落とされたのが、記憶に新しい。「サザビーズ・コム」はナビゲーションがたいへん分かりやすく、オンライン・オークションと、ライブ・オークション──つまり生の本もののオークションと二つに分かれている。ライブ・オークションにはこれから行われるオークションの予定が記されているが、そのカタログの画像をオンラインで眺めるのは楽しい。オンラインもライブも出品物に想定価格が付されているが、サザビーズの名があるだけに、信用できそうな気がする。価格のレンジは最低数百ドルから数百万ドルまで。サザビーズ・コムがイーベイの数倍の売り上げを上げているというのも、うなずける。
 このような競売のサイトは、世界中の美術館・博物館の担当者や美術史家、蒐集家、好事家たちが日夜、目をさらにして追いかけているわけだが、そういった人たち向けにアート情報を専門に流しているサイトもある。「artprice.com」では、オンライン・オークションの結果がデータベースにされていて、作家の作品の値段の相場がわかる(有料)。「ArtDaily」では、美術館情報、オークション情報、展覧会情報など、毎日数本の美術関係の情報を流している。「9月8日に大英博物館でオープンした『神道』の特別展はなかなかヴォリュームがあるらしい(12月2日まで)」「次回のクリスティーズに後期印象派のいいものが出される予定」なんていう時時刻刻の情報はここをウォッチしているとわかる。さらにヴィジュアル・アートだけでなく、音楽、演劇までカバーしている総合アート情報サイトとして「Arts Journal」がある。こちらも毎日の配信で、『ニューヨーク・タイムス』紙や『ガーディアン』紙など、合計200もの媒体から記事をクリッピングして読ませてくれる。日本語のサイトにはこれほどディープものは見うけられないが、リンクが多方面にわたって充実している「ルビコンアート」【ここは角川書店のTokyoWalkerに吸収された。今はアート関係の英語のリンク集のサイトに】が便利だ。
 このような情報の海をくぐり抜けて、美術館・博物館に“永住の地”を確保する作品もある。美術館によっては新規収納作品として、誇らしげにそれらを告知している。「サンフランシスコ近代美術館」では、モンドリアンやルネ・マグリット、ピカソなどの作品を篤志家の寄付により入手【ページ消滅】。ブリュッセルの「ベルギー王立美術館」では、19世紀ベルギーロマン主義の画家の作品をロンドンのオークションで手に入れて【ページ消滅】いる。このように最近は公立機関では収納品の出所を明示するケースが増えているが、じつは美術館に収納されている作品でさえ、出所をたどっていくと不明朗なものがある。その作品はたとえば、第二次世界大戦期にナチによって略奪された美術品かもしれないのだ。「ニューヨーク近代美術館」(MoMA)では、収蔵品の中でそのような可能性のある作品を13点ピックアップして画像入りで紹介【ページ消滅】している。ピカソ、ボナール、クレー、レジェなどの逸品で、さしずめナチ収奪品ギャラリーといった趣だ。同じくニューヨークの「メトロポリタン美術館」にはさらに膨大な445点にのぼる作品が画像付きで用意されている。
 もうひとつ、不明朗な出所といえば、盗品だ。盗まれた美術品は国際的な闇ルートに流れていって表の世界から消えていく。そしてほとぼりがさめたころ、何くわぬ顔をしてマーケットに出てくることもある。世界178ヵ国が加盟する「インターポール」(国際刑事警察機構)では、盗難美術品を網羅したCD-ROM【ページ消滅】を作成、頒布している。警察、税関、美術館、美術商、美術愛好家向けということで、14000点もの作品が画像付きで網羅されている“盗品美術館”だ。さらに最近の盗品はウェブ上で公開。帽子をかぶった少女を描いた藤田嗣治の作品がスペインで盗まれていたり、計47点が“指名手配”されている。「FBI」(アメリカ連邦捜査局)にも、盗難美術品のセクションがある。ここでもこんなにと思うほどの数の作品が画像付きで公開されているが、見どころはボストンのイザベラ・スチュワート・ガードナー美術館から1990年3月18日に盗まれた傑作の数々【ページ消滅】。世界中で30数点しかないというフェルメールの作品のひとつ『合奏』をはじめとして、レンブラントやドガの作品がウェブ上に展示され、計500万ドルの賞金がかけられている。
 さて、値段のことなどは忘れて落ち着いて傑作を鑑賞しようとなると、やはり美術館のサイトだ。これまで画集やガイドブックでしか目にすることができなかった数々のマスターピースが、インターネットのおかげで画面に現れてくる。数ある美術館サイトの中でも極め付は、パリの「ルーヴル美術館」だ。日本語のページがあるのもありがたいし、それどころか、館内見取図をたどりながら移動、QuickTimeVRソフトにより館内60ヵ所の地点で、カーソルを動かして視線を変えることができる文字通りのヴァーチャル・ツアーが堪能できる。その上『ミロのヴィーナス』では、像の周りを一周しながら観るという芸当までさせてくれる。
 ルーヴルと並ぶ巨大ミュージアム「大英博物館」では、フロアー・プランに沿ったヴァーチャル・ツアーはない。その代わり「コンパス(羅針盤)」のコーナーで、1000万点以上といわれる収蔵品からもっとも重要なもの約3000点を選りすぐって見せてくれている。テーマごとに作品を見ていくこともできるし、検索でお目当てのお宝に一発でたどりつくこともできる。たとえば『ロゼッタ・ストーン』の綴り(Rosetta Stone)を入力すると、ロゼッタ石の写真とていねいな解説、関連するアイテムが並んだページにたどりつく。
 ヴァーチャル・ツアー方式と検索方式の両方を取り入れているのが、ロシア・サンクトペテルブルクの「エルミタージュ美術館」だ。巨匠ダ・ヴィンチの傑作『聖母子』はバーチャル・ツアーの1階のレオナルド室からでも、検索で綴り(Madonna)を打ち込んでも、行きつくことができる。
 いいことづくめの美術館サイトだが、どこもがカッコいいわけではない。ワースト・ワンに挙げてもいいのは「東京都現代美術館」だろう。もちろんヴァーチャル・ツアーもなければ(各室案内はある)、作品の画像も数えるほど。残念だ。せめて6億円かけて購入したロイ・リキテンシュタインの『ヘア・リボンの少女』くらいは画像を出してほしいもの。ページ・デザインやナビゲーションも一見に値する(ほどひどい)。根気よく探さないとアンディ・ウォーホルの自画像にさえ、たどりつかない。
 こうやってヴァーチャル・ツアーへの欲求がこうじると、自分でウェブ上にヴァーチャル美術館を作っちゃおうという好事家が出現する。マーク・ハーデン氏による「Mark Harden's Artchive」では、仮想館内図を作って、ゴヤの部屋とかレンブラントの部屋を配置している。この人は米空軍勤務というユニークな経歴の持ち主で、1995年から絵のスキャンをこつこつと行い、2000もの画像が「収蔵庫(artchive)」に収められている。画像の精度が美術館サイトのものより細かいのがありがたい。ダ・ヴィンチの『モナリザ』も、ここで743×1155ピクセルのものを鑑賞するとよい。
 もうひとつ、1994年創設のニコラ・ピオッチ氏による「WebMuseum」もある。残念ながら現在ではメンテが行われていないが、「Famous Paintings」のコーナーでは、ゴシックからポップ・アートまで体系的に作品が網羅されている。別格は、フランス・シャンティイ美術館所蔵で、本物は痛みが激しいため展示されていない美しい『ベリー候の豪華時祷書』だ。
 美術館・博物館へのリンクは、ここまでに紹介した美術サイトにもかならずといっていいほど含まれている“定番”ページだが、ひとつだけ、村井直也氏による膨大なリンク集サイトを紹介しておこう。国宝の鳳凰がトップ・ページを飾る「5000 Museum Links」だ。文字通り5000もの、いや今は6000以上のリンクが収められている巨大ポータルだ。村井氏の偉いところは、単なるリンク収集・分類にとどまらず、世界のベスト美術館を選出したり、世界の定番美術館、定番博物館のサイトの見方をガイドしているところ。「MoMAってなあに?」という初心者は、ここらあたりからスタートすべし。
 さらに初心者で、どこからとっついていいか見当がつかないという人がいたら、(そんな人はこの記事をここまで読み進んではいないと思うが)、関西学院大学で美学を教えておられる加藤哲弘教授による「美術史とインターネット」というありがたーいコーナーがある。あまりにていねいすぎて、美術の先生がいかに無知な学生に悩まされているか、そちらのほうが切実に伝わってくるくらいだ。じつはネット上の美術お宝探しは、結局は自分に美術史の素養がないと面白くない。美術史概論の1冊なりとも読んでからネットに乗り出してほしいところだ。
 美術史の教科書に出ているものじゃなくて、コンテンポラリーなものがいいなら、行き当たりばったりにサーフィンするしかない。これぞおススメというサイトはないからだ。「Museum of Web Art」なんて、名前はいいけれど、訪れてみると各ギャラリーは一時代前の色褪せたgifアニメやボタンばかり。メンテも1999年あたりが最後。ウェブ上にはこのような“休・廃館”サイトがゴロゴロしている。
 そんな中で、イキのいいのが“開館”ホヤホヤの「NEW MEDIA GALLERY」だ。これはオンラインでオーストラリアのメディア・アート作家のショーケースを開こうというもの。ウェブデザイン、CG、デジタルアニメーション、パフォーマンスアート、インタラクティヴワーク、マルチメディア、そしてャンルをクロスオーバーする刺激的なアート映像が展示されていている。14グループの作家の作品へのナビゲーションも分かりやすく、日英2ヵ国語になっているので見やすい。
 もうひとつ、ウェブで自分の私生活そのものをアートにして公開している25歳の米国女性ジェニー・リングレー女史による「JenniCam」(http://www.jennicam.org)はヴァーチャルな“人間美術館”だ。1996年という早い時期にスタートしたウェブカムの先駆者的サイトで、その後いくつもの亜流サイトが誕生したが、すべてエッチ系なだけにこのジェニカムの偉大さが輝いている。【このサイトは2003年に終了。Wikipedia解説】あとはコンピュータ・ソフト会社のサイトのショーケースに優れたものが紹介されていることが多い。たとえばアップル社の「CubicVRギャラリー」では全方向の視線を向けることが可能な驚異の画像作品8点のほか(要QuickTime5)、優秀作品サイトへのリンクがある。
 ところで、手の届かないお宝で、絵画や書物をしのぐものといえば、宝石だ。ワシントンの「スミソニアン国立自然史博物館」の宝石コレクションは、世界有数を誇っている。中でも45.52カラットの『ホープ・ダイヤモンド』は、深い青色に輝いている。1600年代はじめにインドで発見されて以来、ルイ14世が所有したり革命で盗まれて姿を消したり。最後はこのダイヤを所持する一族に不幸をもたらすという伝説が生まれたいわく付きの至宝だ。
 最後に、世界最大のカット・ダイヤモンドを拝んでみよう。これまで世界で掘り出されたダイヤモンド原石の中で最大は、1905年に南アフリカで発見された3106カラットの「クリナン」(2つめは1893年に発掘された995カラットのエクセルシオール)だ。クリナンからカットされ研磨されたダイヤの中で最大のものが530カラットの「クリナン I」で通称『アフリカの星』。これは英国王室の王の錫杖(つえ)に使われている。2つめは317.4カラットの「クリナンII」で英国王冠を飾っている。どちらもロンドン・テムズ河畔の「ロンドン塔」内の「ジュエル・ハウス」【ページ消滅】に収められている。